漢詩詞新聞17 文化交流漢詩詞結社葛飾吟社 topPage

 平成十七年の初頭に当たり、遅ればせながら謹んで年頭の辞を申し上げます。中国は今年が建国五十三年の若い国家です。

 年賀葉書もよく来ますが、クリスマスカードの方が多いようです。キリスト教か?と聞くとそうでもないようです。日本と同じ宗教感覚のようです。

 中国では今、漢俳が簡単に作れるので流行っているようです。

  中秋寄扶桑友人   北京 中国文化部副部長 劉徳有
欣喜結詩縁,
漢歌俳句盡華篇,
相逢月更圓。

 

 日本人の作品も紹介しましょう。

  迎接酉年野生一鵲囘到豊岡村     松戸市常盤平 今田莵庵
鵲聲曾在故村駘,滅失尋因農薬災。
哀惜中華呈母鳥,放流田螺除叢苔。
深謀修改三年後,何圖野生一鳥來。
駆逐害虫委蜻蛉,天然摂理再周囘。

 産業発展の為に非効率は排除され、農業環境も薬剤に頼る結果となりました。その結果多くの動植物が死滅しました。人類は自己の便宜のために多くの生命を奪っても好いのでしょうか?

 

 

17-02


平成17年2月

 上から読んでも下から読んでも読める詩を回文詩と言います。

廬山途上之作 七言律詩 順讀
懐留筆達苦無踪,廟塔晴嵐緑樹叢。
堆起雲峯雲靉靉,接來霧澗霧濛濛。
衣沾草露才花白,杖曳泉飛已葉紅。
誰寄袋嚢詩骨健?危岩磴桟徑重重。

 順読に読みを着ければ
懐を筆達に留めて苦に踪無く,廟塔、晴嵐、緑樹叢たり。
堆起す雲峯、雲靉靉,接し來る霧澗、霧濛濛たり。
衣は草露に沾れ才く花は白く,杖は泉飛に曳きて已に葉は紅し。
誰ぞ寄せん袋嚢、詩骨の健なるを?危岩、磴桟、徑は重重たり。

 倒讀(逆読み)は
            倒讀
重重徑桟磴岩危,健骨詩嚢袋寄誰?
紅葉已飛泉曳杖,白花才露草沾衣。
濛濛霧澗霧来接,靉靉雲峯雲起堆。
叢樹緑嵐晴塔廟,踪無苦達筆留懐。

 

 この回文詩はチョット複雑です。

  回文詩 吉林省 ? 潘建
家居自育満壇花,育満壇花豊麗佳。
佳麗豊花壇満育,花壇満育自居家。

 

 

17-03/30


17-3/13      この記事に書かれた行事は、3月23日に挙行されます。この記事は3月13日に書き込みましたので、内容に変更があった場合は、書き換えます。

 日本と中国は共に漢字を使う国です。以前はもっと沢山の国で漢字を使っていたそうですが、義務教育として漢字教育をしている国は中国と日本だけに成って仕舞いました。

 漢字を使う国同士、もっと文化の面でも交流を深めようと、葛飾吟社は20年来、漢詩詞の交流に努めてきました。中国には、日本の俳壇との交流の目的を持って生まれた、「漢俳」が有ります。

 このたび、3月23日、北京に於いて、漢俳学会成立記念式典が開かれます。日本の俳句四団体が招待されたそうですが、現代俳句協会だけが出席するそうです。(3/13現在)葛飾吟社は長年の実績が評価され、俳句団体ではありませんが、招待されました。記念式典は、対外友好協会講堂で行われます。出席者は日中併せて百程度です。

式典次第

漢俳学会会長 劉徳有先生 挨拶

中国文化部 丁偉先生 祝辞

日本大使館 阿南大使 祝辞

現代俳句協会 金子兜太 祝辞

葛飾吟社 中山榮造 祝辞

慶祝宴会

 

 午後からは、レセプションが行われます。劉徳有先生司会、安西篤先生司会補佐

 現代俳句協会 倉橋羊村発言・中国書道家連盟副会長詩家 林岫女士発言・現代詩詩人 李小雨女士発言・葛飾吟社代表理事 今田述先生発言。

質疑応答。

 

17-4/3


 漢俳学会成立式典は3月23日に北京の対外友好協会講堂で100名ほどの出席を得て、先月記事と大差なく、大過なく行われました。

 今月は、漢俳とはどういう作品なのかを解説してみましょう。漢俳は、漢字五七五字三句の漢民族詩歌なのです。どの作品でも良いのですが、皆さんよくご存じの「江南春」を例に挙げて説明しますと、

  江南春   杜牧
千里鶯啼緑映紅,

水村三郭酒旗風。

南朝四百八十寺,

多少楼台烟雨中。

の四句の中、どの句を除いても良いのですが、例えば、起句を削除しますと、

水村三郭酒旗風。

南朝四百八十寺,

多少楼台烟雨中。

と成ります。

これを一句と三句を五字にして、多少の加除加除を行いますと、

千里酒旗風。

南朝四百八十寺,桜花烟雨中。

と成ります。これでは、どこか言い足りなさが出てきます。

これが漢俳の特徴です。でも、字数は少ないのですが、七言絶句とほぼ同じ趣旨が表現できるのです。ご自分の好きな作品を土台にして、色々試みると、自ずと漢俳のニュアンスが掴めると思います。

 幾つかの例を挙げてみましょう。

千里緑映紅。南朝四百八十寺,楼台烟雨中。

鶯啼緑映紅。緬想三郭酒旗風,楼台烟雨中。

鶯啼緑映紅,水村三郭酒旗風。模糊烟雨中。

 

17-5/30


四国八十八ヶ寺巡礼

 今年の三月、近隣の者に誘われて、女房と二人、白衣を着て、四国八十八ヶ寺巡礼の仲間に加えて貰った。

曄歌一首  金剛杖。同行二人,心経響。

 私は現在職を辞し気儘に過ごしているが、歳を重ねる毎に、四隣の重要性は増す。

瀛歌一首  躯懶出。四隣暢通,安巷屋。十年歳月,楽湿徹路。

 陶淵明の詩の様に生きたいのだが、思うに任せぬ!

人生無根帯,瓢如陌上塵。分散遂風轉,此已非常身。落地爲兄弟,何筆骨肉親。

得歓當作楽,斗酒聚比隣。盛年不重來,一日難再晨。及時當勉励,歳月不待人。

 わが人生は、十有七而離家郷、二十而嘆貧賤、三十而志乎學、四十而奮勉工作、五十而離職、六十而不知心所欲、為白衣寶印。

 四国に行って驚いた。巡礼客人頗る多く、思い悩む人が、斯くも多いとは!

瀛歌一首  桜花下。城市老若,互相話。借款房間,石築大厦

曄歌一首  不惑年。欲払情念,迷俗念。

 帰途、高野山を訪れる。古い墓所を通り抜け本堂に到る。

坤歌一首  死后銘。石頭高低,亦競争。

 寺院を訪れるたびに般若心経二三度は唱えるから、通算二百数十回は唱えている勘定となる。だが帰途酒屋に立ち寄ったら・・・

瀛歌一首  色是空,般若心経,空是色,経文已空,老躯酒亭。

 

17-6/30


17-6/15

 今月は自由旋律の詩を紹介しよう。定型にはとらわれないが、根本は定型詩の範疇にある。

  自由詩・草珊瑚(樹高10センチほどの赤い実を付ける千両)

    松杉下,                 松や杉の木の下、
身高僅有三寸三。             身の丈は僅かに10センチほど
矮木影,細竹間。             小さな木の陰、笹だけの間。
不識初陽燦,無憂凍雨寒。     旭の輝を知らず、冷たい雨の憂いもない
  草珊瑚。                 千両
豊豊小果,粒粒鮮朱。         ふっくらとした小さな実、真っ赤な粒
啄朝雀,掉暮烏。             朝の雀が啄み、暮れの鴉が掉す
  微雨如糸花落季。         糸のような雨、花が落ちる季節
薫風換景水暖時。             薫風は辺りの様子を換え、水が温む
櫟樹香塵下,                 櫟の花が落ちた處
四四嫩芽幾百,嫩芽両三枝。   四方に柔かな芽が幾百、柔かな芽に二三本の枝
  春夏秋冬両三遷。         季節は巡り三年目
身高已有三寸三。             身の丈は既に十センチ
粒粒丹丹。                   真っ赤な粒々

 

17-7/30


17-7/30
 七月は七夕の月である。新暦なら七月七日、旧暦なら八月七日である。七夕は秋の景観である。澄んだ秋の夜空に銀河が横たわる。そこから多くの物語が生まれる。

 新暦の七夕では、丁度梅雨の真っ最中、空は雨雲に覆われとても銀河が望めものではない。だいぶ季を逸してはいるが、世間の例に倣って七夕の作品を紹介しよう。

  秋夕 杜牧
銀燭秋光冷畫屏,輕羅小扇捕流螢。
天階夜色涼如水,臥看牽牛織女星。

  秋の夕べ
銀燭の 秋光  畫屏 冷え,輕羅の 小扇に  流螢 捕ふ。
天階の 夜色  涼きこと 水の如く,臥して看る  牽牛 織女星。

起句−
  銀燭秋光冷畫屏:白いロウソクで照らし出された秋の風光は、秋の冷気や秋風で絵が描かれている屏風を冷やして。

承句−
  輕羅小扇捕流螢:薄絹を張った軽やかな小さいおうぎで、飛び交うホタルをつかまえた。

転句−
  天階夜色涼如水:宮中や天上世界とのきざはしは、水のように涼しくて。

結句−
  臥看牽牛織女星:横になって、一年に一度の今夜に出会っている牽牛星と織女星を眺めている。


17-8/12

 先月、熊野詣でに行った友人から白南天の箸をを頂いた。

 南天の箸は縁起が良いという。早速お礼に一詩をお返しした。

  箸      箸は二本で一組で有るから

朝朝暮暮好因縁, 朝な夕なの好き因縁

砕骨撕肉共苦辛。 骨を砕き肉を撕り共に苦辛

雖有君折即我死, 君が折れれば我れ即ち死すと雖も

南天白白勝於銀。 南天の白と白は銀よりも勝る有り

此は、箸を戴いたお礼だが、恋の歌にも成る。

 

朝朝暮暮好因縁, 朝な夕なの好き因縁

砕骨撕肉共苦辛。 何時も一緒に苦労を重ね

正似君折即我死, 貴方無しでは生きられない

連枝比翼腐儒身。 連枝比翼のお馬鹿さん

此れなら、貴方無しでは生きられないお馬鹿さん!と成る。

 暑中見舞いにメロンを戴いたので、お礼の一詩

  賜甜瓜 (富良野キングルビーメロン)

遠来鮮果玉爲名,豊冨網包自粛清。

却想親朋故郷事,酸甜香味少年情。

 

 


17-9/12

 今年の残暑は今までになく厳しいようで、すっかり暑さに降参しました。

 町内にセレモニーがあります。しょっちゅうお葬式を見ます。色々考えさせられます!

  曄歌 仙游出門

放在上。仙游出門,身高杖。

置いてあります。冥土への門出に,身の丈の杖。

生前にどんな生方をしようと、冥土へは身の丈の杖しか持って行けません

 

 

 尻取りと謂う言葉遊びがありますが、会員が面白い作品を作ったので紹介しよう。

  新天鵞城 于吊橋望城館 萩原艸禾

描壁賞城野水遥,遥看尖頭對危橋。橋邊遊客來還寫,寫筆往事景可描。

 この作品は、ヨーロッパ写生旅行の作品である。白鳥城を吊り橋の上から望んだと書いている。

 

  小花三題録一 罌粟(ケシ)

浮世自古愛花多,一片愁心誘妖魔。可恐果実産阿片,輕輕素萼勝傾国。

昔から花を愛する人は多いけれど、ちょっとした心の隙が悪魔を誘い込んでしまいます。あー怖い、果実から阿片が出来て、たおやかな花びらが、こんなにも悪さをするとは。

 麻薬も怖いけど女性も怖いと謂う意味です。輕輕素萼はケシの花と女性の衣装を指しています。傾国とは玄宗皇帝の話が元になっています。

 

 

 


17-10/19

 今月は墨書に書かれている對聯の作品を示そう。

 ジヤッキーチエンの映画を見ると、建物の柱に何やら字が書かれているのが映ります。あれは、両方の柱が一組になった楹聯と云う文化で、二本一組だから、作品としては「對聯」と云います。

  對聯十一聯

萬巻詩門秘,千秋筆硯師。

一病安心處,千金落魄身。

歳歳花開落,年年人死生。

子女夫妻福,鶴髪偕老縁。

英勇功名羊腸路,朋友氷心翰墨縁。

殺戮牛豚称愛護,侵略国土弄和平。

我想青山幾層楼,君看白梅数枝紅。

幾度春風人結髪,多年交友月有情。

峯嶽雷轟輸急雨,林蹊客惑結深憂。

臨風喞喞自終夕,邀月啾啾度永宵。

立志諮功出郷里,耽詩溺酒散私財。

 二句で一組、一作品ですから、書道の練習用に是非ご利用下さい。

                   中山逍雀 頓首

 

 


17-11/14

 今月は昨月に続けて墨書用の作品を紹介しよう。

  曄歌四首

桂香幽。丹柿紅楓,萬戸秋。      彩雲箋。筆硯払愁,一味禅。

野人門。白紫花開,十歩園。      落花軽。蝶怨鶯愁,美酒横。

 

  瀛歌三首

落花春。萬紫千紅,半是塵。年光易過,竹樹迎新。

稲雲黄。隔地相思,兩不忘。故郷諍友,繊指淡粧。

四無聲。密雪凍雲,折竹鳴。浮生道義,俗吏都城。

 

  五絶三首

萬紫無人掃,誰知隔歳華。新園芳草雨,舊邸侍臣家。

柿熟芭蕉裂,雲流節序移。應看残照外,一路勝花時。

尺雪闢V地,飄花江上風。囲炉村路絶,袖手一釣翁。

 

  七絶二首

濃春遠景緑陰繁,山麓農家聊避喧。却覚浮世多薄命,落紅任地自無言。

梧桐樹下九秋初,隔地相思待雁書。句句思君獨伏枕,一輪皓月照草廬。

注;詩題は句の中から語彙を適宜選んで用いれば大過有りません。

 

 

 


17-12/15

 晩秋から初冬、厳冬へと気候の移りは殊に早い。仏壇用に丹精して居た菊も、急に霜に侵されてしまった。此の講が載る年末には、すつかり凍り付いているかも知れない。

落葉飜。草屋十年,菊倚垣。

 

 一日毎に青葉が色づき、寒くなると人も億劫となる。窓からは隣家の柿の実が見え、時の移るのは早いのに、机の上には、以前作った作品がある。

繁霜青葉痩,只有昼掩門。開窗残柿在,回首旧題存。

 

 秋は、みのりと、冬の入り口、収束の時でもある。

秋深門巷早寒生,茅屋荒籬葉葉声。有酒無詩残菊在,多年百事是虚名。

 秋深くして巷は早くも寒くなり,ボロ屋ボロ垣根、枯葉が舞う。

 酒ばかり飲んで詩は出来ず枯れかかった菊が有るばかり,長年に渉って色々な事をしたけど、実質のある事は出来なかった。

 

幽香花一朶,微志思千端。ほのかな香の一本の花;少しの志なのに思いはあれこれ。

歳月人若問,風塵我亦安。歳月をどうしましたか?と尋ねられれば;世の煩わしさも亦楽しいよ!

ご挨拶;新しい歳を迎えるに当たり、若い頃は、あれもこれもお願いしましたが、今では、何事もありませんように!と、新年を迎えます。   著者 頓首