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13-2/6 一月号は新聞社の名刺交換ですので休みます。

今回は一寸面白い作品を紹介しよう。

この作品は横書き読みでも縦書き読みでも作品になるというのです。

春日試筆

鶴頭格五古

山深花融筆

田廣紅伴人

和意雖詩庭

雄泰老百春

 平成十三年一月二十四日

(陰暦元旦)中山逍雀

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

田和:田斉 戦国時代斎國の家老田和が前368年に政権を奪って立てた君主に成ったのを斎と言う。

横書きは上の儘で読めるので、縦書きを読みやすいように横書きにしてみよう。

春日試筆 鶴頭格五古
筆人庭春融,伴詩百花紅。雖老深廣意,泰山田和雄。

 

13-3/5

今回は、多少長編の作品を紹介しよう。この作品は、比喩と興と言う叙事法で構成される作品です。バブル崩壊後の今の世の中を詠っています。

矢切慕情     古詩換韻格   松戸市常盤平  今田菟庵
窮陰伴妻入市廛,馬路轣轆紀末年。 先韵
軽車下坂廣旱田,羊腸故路竹樹邊。
久尋朋友路不得,偶訪農戸殊成縁。
詳説老婦矢切故,累代篤農守祖墓。 遇韵
研白葱味養家属,創緑梨種慈果樹。
孫女出都就宿志,公司破産失業務。
更加息嫁話無限,薦茶焼餅迫日暮。
購葱坐車向渡津,小橋沃圃趣還新。 真韵
両三扁舟排隊柳,飛船一過浪曳銀。
遠阜幾点如影画,緬懐昔時窮耕人。
早春河原融雪下,双雁相扶作葦舎。 馬韵
重問今昔想回旋,破國順逆幾偽篇。  先韵
教尊新奇蔑古賢,俗吏小人専守銭。
愛愛養雛嫩草垈,忙忙求餌無休暇。  馬韵
雷雨溢堰没葦原,野狗徘徊常驚訝。
秋天風爽魚米郷,滞穂貪盡膏満嚢。 陽韵
忽到寒気枯緑葦,横斜雁影自有常。
却羞人間慢天倫,轉瞬金裝猶未忘。

 

13-4/6
 同じ文字を幾つも用いた作品を紹介しよう。
晩唐の詩人 劉駕の作 暁登迎春閣
未櫛凭欄眺錦城,烟籠萬井二江明。香風満閣花満樹,樹樹樹梢啼暁鶯。
主旨:未だ櫛も当てない明け方、欄干に凭り掛かって錦城を眺眺めると,・・・・。香風は閣に満ちて花は樹に満ち,樹樹の樹の梢に暁の鶯が啼いています。樹が3つ続けて使われています。
元○作の行宮
廖落古行宮,宮花寂寞紅。白頭宮女在,閑坐説玄宗。
 此処では「宮」の字が3回使われています。ところで、これに似た作品、何処かで見た事が有りませんか?
 そうです。吉野三絶と評される、藤井竹外の吉野懐古です。
二つの詩を並べて書いてみましょう。

寥落古行宮,  宮花寂寞紅。    白頭宮女在,  闕ソ説玄宗。
古陵松柏吼天○,山寺尋春春寂寥。 眉雪老僧時輟掃,落花深処説南朝。

 この様に並べられると、素人にも一目瞭然。場所と登場人物を入れ替えただけだ。寥落と松柏吼天○は同じ状況表現だ。更に中国では墓に槇柏の木を植えるそうだが、日本にはそんな習慣はない。余計な借り物までしてしまった。古行宮とは行幸の時の仮宮、古陵とは高貴な人の墓。宮花寂寞紅とは春ではあるが寂しい景色。山寺尋春春寂寥も春の寂しい景色、あちらは紅と言い、こちらは春と言う。 あちらは白頭宮女なのに此方は眉の白いお坊さん。あちらが説玄宗と言えば此方は説南朝と言う。
 今ならこういう作品を著作権侵害と謂い、盗作とか剽窃とも謂います。とんでも無いところで、藤井竹外先生ボロを出して仕舞いました。

註:○印はインターネット上で表示出来ない文字です。

 

13-5/13
 俳句は575の音律句で有ることは誰でも承知している。この超短詩が今の時勢にあって居るのか、「Haiku」が海外で愛好者を得ているという。 此と同様に、漢字圏でも、漢字575を書き並べた「漢俳」が定型の地位を得ている。漢字の575字は平仮名の575とは、だいぶ含有量が異なるが、吟社にも漢俳投稿は沢山ある。漢詩が簡単に出来ると謂うことと、短い
からといって軽率に扱えない一面を持っている。
北京 高勇
 登佛塔                 佛塔に登る
佛塔入雲霄,              佛塔 雲霄に入り,
登上高層眼界遥,          高層に登れば眼界遥かなり,
心鏡遠塵囂。              心鏡 塵囂は遠し。

 風筝                    風筝
風送入雲天,              風送って雲天に入り,
再高未有自由権,          再び高まりて未まだ自由の権有らず,
游人把綫牽。              游人は綫牽を把る。
                                註:風筝;凧(編者)

 沙塵                       沙塵
年年?樹忙,               年年樹を伐るに忙しく,
北風昨夜又逞狂,         北風昨夜 又逞しく狂う,
沙土漫天揚。              沙土天を漫して揚る。

13-6/15
戯れ言葉
 薩摩の守・・忠則と言う言葉は誰しも聞いたこともあるし、一度や二度は使ったことが有るだろう。言葉の文化、とでも言おうか。この頃は既製服の様な型に填った味気のない言葉ばかりになって、深みのある腹の底を擽るような言葉がすっかり忘れ去られて、言葉に厚みが無くなって仕舞った。身の回りにある大切な文化を軽んじる人が多くなったのだろう。
 厠の火事、蛙の面に水などの言葉を知っているか?と聞くと恐らく「品位に欠けた言葉云々」の返事が返ってくると思う。其れは、喋り手も聞き手も共に言葉の文化に疎いから出る返事で、戯れ言葉は実に沢山あって、適切に用いれば一言にして親近感を与えることもあるし、趣旨に深みを添えることもあるし、その場を和らげる事も出来るのである。
 私は長い間、多くの中国文化人と手紙のやりとりをしている。彼らは農民から政治家、官吏、学生から教授まで、実に多くの言葉を知っていて、相互疎通の潤滑油として実に巧みに使っている。
 「厠の火事」が翻訳しにくいのと同じに、中国語の戯れ言葉「歇後語」も文字面では翻訳しにくい一面を持つ。前置きはこれくらいにして、実例を幾つか挙げてこの責を免れよう。
1:唱戯的喝采(役者が喝采する)・・・・・自画自賛する
2:泥菩薩洗臉(泥の菩薩が顔を洗う)・・・洗えば洗うほど見苦しくなる
3:半夜里吃黄瓜(夜中にキュウリを食う)・事の事情を知らない
4:做夢娶嫁婦(夢で嫁を貰う)・・・・・・良いことばかり考える
5:猫儿哭老鼠(猫が死んだ鼠の為に哭く)・うわべだけの情け
6:太平洋的警察(太平洋の警察)・・・・・余計なことまで口を出す

 

13年7月 今月は新聞社の暑中見舞い広告の月、稼ぎ時なので遠慮しました。

 

13-8/6

 漢詩作品は先ず読んで楽しみ、書かれた文字を看て楽しみ、今度は唱って楽しみます。提示の作品は、文字の配列も楽しみの中に入っていて、4ッの楽しみを提供してくれる作品です。

        山。
      耐苦,高攀。
     千峽静,萬峰環。
    投杖握手,脱帽破顔。
   細看岸壁列,遠瞰彩雲間。
  登頂乾杯頒悦,回家語険思艱。
 勃然再興懐岑念,忽地忘憂陟意還。
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
 岩礁波濤夙響沖,嬋娟浴態将開蕾。
  船窗烈日斜侵,舷側潮香焦待。
   潜水数千尋,光霞幾百倍。
    海帯踊揺,魚鱗鮮彩。
     麗城姫,竜宮宰。
      乾始,坤在。
        海。
              松戸市常盤平 今田菟庵 作
 山登り。握手して帽子を取りつい笑みがこぼれる。俯瞰し、乾杯し、家に帰ると艱難の話。だけど又登りたくなる。≫≫は海面です。岩礁には波打つ響き。若い娘さんが水遊び。潜水数千尋。昆布が踊り魚鱗が鮮やか。竜宮城には乙姫様が居ます。天地創造の海。

 

13-9/17

 今回は歌謡曲風の作品を紹介しよう。中國定型詩歌には、詩と詞が有ります。日本人が中國詩歌と云うと、四角四面、将棋盤の様な「詩」を指しますか、詩はせいぜい二十の定型しか有りません。中國詩歌の本流は二千余の定型がある「詞」に有ります。
 ここに会員の作品を紹介しましょう。

采桑子 思君
  ??遠去君安在?,恋々多情。嫋嫋春情,獨恨空閨酌轉傾。
  ああ、貴方は遠くへ行って、今何処に?恋し焦がれて。
  か細い私の心、酒で心を癒すのよ。

  庭柯落葉斜陽淡,沸沸秋聲。切切虫聲,帯緩霑巾恨此生。
  庭の大きな木の葉も落ちて、夕陽淡く、秋の訪れ。悲しき虫の声,涙にくれて、やつれやつれて帯びも緩み、こんな私が恨めしい。
 歌謡曲風の歌詞、下手で申し訳有りません。読者諸氏もどうぞ好い歌詞に挑戦してみて下さい。
 
寄調長相思 春愁
  雨声忙,雨脚強,窗下開書想麝香。依依惜別章。  夢醒時,愁來時,空湿衣襟憐玉姿。何執硯毫寫舊詩。

詩とは雰囲気の違うことをご理解下さい。

 

 

13-10/17

 今回は、力作を紹介しよう。会員の独りが、孔子の由緒地曲阜に旅行した。彼は孔子(論語)に私淑しており、感慨も人一倍で有った事だろう。

  曲阜孔林偶成        東京 斎川正二
春秋魯国遠来尋、 春秋の魯国 遠く来り尋ぬれば、
穆穆古風滋味深。 穆穆たる古風 滋味深し。
墓苑商人静相語、 墓苑の商人は 静かに相語り、
村童絡我笑無心。 村童は我に絡み 無心に笑う。
文革暴行頻連踵、 文革の暴行は 頻りに踵を連ね、
批孔摧残夫子冢。 孔を批して摧残す 夫子の塚。
眼前修理雖已成、 眼前の修理は 已に成ると雖も、
痕跡尚存客心悚。 痕跡尚お存し 客心悚る。
龍虎千載空競勲、 龍虎千載 空しく勲を競い、
世界今日亂紛紛。 世界今日 乱れて紛々。
百鬼夜行吹妖気、 百鬼夜行して 妖気を吹くも、
何滅情理一貫文。 何ぞ滅びん 情理一貫の文。
(侵・腫・文韻)
註:この作品は、古詩の格律を用い、三ッの内容によって構成されています。 初めの四句二文は、「侵」の韻を用い長く心に秘めた思いと墓苑の様子を語ります。
 次の四句二文は、「腫」の韻を用い文化大革命に依って毀損された現実と嘆きを語ります。
 次の四句二文は、「文」の韻を用い孔子先生(論語)の、心理の偉大さを語ります。

 

13-11/13
 多くの人は漢詩というと、小難しい事が書かれた詩歌という印象を持って居いるようです。考えてもご覧なさい。中国人はみな小難しい事ばかり言っている人達ですか?そんなことはありません。日本の選者が小難しい作品ばかり選んでいるからなのです。
 日本人の作品も小難しい作品ばかりが紹介されていますが(小難しい作品の方が作るのは易しいのです)、決して小難しい作品ばかりではないのです。
 今回は、味のある作品を紹介しましょう。

五言絶句五首  東京 石倉鮟鱇
雷公揮白刃,盆雨打芭蕉。携手留佳客,閻魔睥睨妖。
註:若い二人か?訳有りの二人か?急の雷雨に手に手を執って、閻魔堂の陰に隠れる。閻魔は睨め付ける。

温泉如濁酒,放屁發長謠。年老無人顧,恬然気自驕。
註:濁り湯の温泉で、プーと一発。年寄りの屁には誰も知らんぷり、屁君、俺だって未だ元気だぞ!ブクブク。

佳人点粧好,鏡裡黛重描。踏月花街歩,到晨萬紫消。
註:夜の蝶も朝方は見られた姿では有りません。

西洋音楽会,放屁聴胡簫。顰蹙非吾事,美人千里遙。
註:音楽会でプーと一発。私じゃありません、美人は知らん振り。

矩台商貌笑,悶悶酒無功。梦醒窗邊佇,流星当西東。
飲み屋のカウンター越しには商売笑いが、星に望みを託そうか。

13-12/12

13-12/12

 慶祝松戸市民新聞(蔵頭格)
松緑竹剛梅幽香
戸戸呈祥趁初陽
市政六十風物改
民聲勃勃窈窕章
新年玉案清筆硯
聞望萬里集君堂
註:この作品は、頭に「松戸市民新聞」の文字を埋め込み、新年のご挨拶です。日本詩歌の「折り込み」とお考え下さい。