漢詩詞創作講座初心者21 文化交流漢詩詞結社葛飾吟社 TopPage

自分の存在と個性

 よい詩とは何でしょうか? 勝れた詩人の作を読むと、それぞれその人にしかない強烈な個性が生きていることを感じます。後世の読者はその強烈な個性に接して追体験して感動するのです。一例として李白の古詩『把酒問月』の冒頭と部分を見てみましょう。

  青天有月来幾時,  青天 月有りて来のかた幾時ぞ,
  我今停盃一問之。     我 今 盃を停めて 一たび之に問わん。
  人攀明月不可得,     人 明月を攀じんとするも得べからず,
  月行却與人相随。    月行 却って人と相い随う。
  ・・・・・・・ ・・・・・・・
  今人不見古時月,    今の人は見ず古時の月,
  今月曾経照古人。     今の月は曾経て古人を照らせり。
  ・・・・・・・ ・・・・・・・

 宋の大詩人蘇軾(東坡)は、ある明月の夜、夜を徹して飲み、李白に応じて次の詞を詠みます。

  明月幾時有?         明月 幾時より有るや?
  把酒問青天。         酒を把りて青天に問う。
  不知天上宮闕,        天上の宮闕を知らず,
  今夕是何年?         今夕 是れ何年?
  我欲乗風帰去,        我 風に乗りて帰り去かんと欲す,
  唯恐瓊楼玉宇,        唯恐る 瓊楼 玉宇,
  高處不勝寒。         高き處は寒に勝えざらんを。
  起舞弄清影,         舞を起して清影を弄び,
  何似在人間?         何ぞ人間に在るに似たる?
  轉朱閣,            朱閣を轉じ,
  低綺戸,            綺戸を低め,
  照無眠。            照らして眠る無し。
  不応有恨,           恨有るも応えず,
  何事長向別時圓?      何事ぞ長く向けど別時に圓なる?
  人有悲歓離合,       人には悲歓離合有り,
  月有陰晴圓缺,       月には陰晴圓缺有り,
  此事古難全。         此の事 古より全うし難し。
  但願人長久,         但願う 人の長久,
  千里共嬋妍。         千里 嬋妍を共とするを。

 蘇軾は李白の詩の個性に応ずるのに詞によりました。ここにも強烈な個性がいます。これは当時絶世の人気歌手袁綯に歌わせたといわれています。三百年の時空を超えて先輩詩人にそのメロディーを聴かせたいと思ったのでありましょう。自分の存在と個性、これは詩の重要要素です。