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古詩。一韻到底格と換韻格

 唐代に律詩や絶句のルールが確立しました。それ以前の詩形を古詩といい、ルールは韻を踏むだけで緩やかです。平仄も下三連(句末が平平平、又は仄仄仄となること)を嫌う程度です。何よりもいいのは詩の長さを自由にできることです。脚韻は最後まで一つの韻で通す一韻到底格と詩節の変遷に応じて換韻する換韻格があります。前節で登場した葛飾吟社の小畑旭翠さんが蕪村の名画を詠んだ一韻到底格(麻韻)を見ましょう。

題謝寅画『夜色楼台雪萬家図』 小畑旭翠
  夜色前山白, 夜色 前山白く,
  瞑雲溌墨加。 瞑雲 墨を溌ねて加う。
  朔風迷道畔, 朔風 道に迷う畔,
  凍雪圧檐牙。 凍雪 檐を圧する牙。
  趁暖囲炉坐, 暖を趁い炉を囲みて坐せば,
  寒窗亦陽斜。 寒窓 また陽は斜なり。
  安身寄語樂, 安身 語を寄するは樂しく,
  尚友自欣嘉。 尚友 自ら嘉を欣ぶ。
  応点高楼燭, 応に点ず 高楼の燭を,
  聊酬陋巷家。 聊か酬う 陋巷の家。
  霏霏華蔵界, 霏霏たり 華蔵界,
  屋後響沙沙。 屋後 響き沙沙。

力作で原画を彷彿とさせます。華蔵界とは華厳経の世界だそうです。

次ぎに斎川游子さんが山東省曲阜の孔子の墓所を詠んだ作を見ましょう。こちらは場面が変わるのに従って脚韻が平韻仄韻交互に変わる古詩換韻格になっています。

   曲阜孔林偶成    斎川游子
  春秋魯国遠来尋, 春秋の魯国 遠く来り尋ぬれば,
  穆穆古風存孔林。 穆穆たる古風 孔林に存す。
  墓苑商人静相語, 墓苑の商人 静かに相い語り,
  村童絡我笑無心。 村童 我に絡みて無心に笑う。 (侵韻)
  文革暴行頻連踵, 文革の暴行 頻りに踵を連ね,
  批孔摧残夫子冢。 孔を批す摧残 夫子の冢。
  眼前修理雖已成, 眼前の修理は已に成ると雖も,
  痕跡尚存客心悚。 痕跡は尚存して客心悚る。   (腫韻)
  龍虎千載空競勲, 龍虎千載 空しく勲を競い,
  世界今日亂紛紛。 世界の今日 亂れて紛紛。
  百鬼夜行吹妖気, 百鬼夜行 妖気を吹き,
  何滅情理一貫文。 何ぞ情理を滅するや 一貫の文。 (文韻)