漢詩詞創作講座初心者13 文化交流漢詩詞結社葛飾吟社 TopPage

詩は作者の時代を詠むもの

 漢詩を詠む日本人で唐代や江戸時代と同じことを詠む人がいます。もし漢詩が詩であるならば、作者の現代の感情に忠実であるべきなのは当然です。例えば現代東京に住む人が「朝顔に釣瓶とられて貰い水」などと詠んだら皆笑うでしょう。ところがそれに近い漢詩を平気で詠んでいる人がいるのです。短歌や俳句は明治の半ばに正岡子
規らが、この短詩形文芸を現代短歌、現代俳句に蘇生させました。漢詩人もそうすべきです。中国の詩人は無論現代を詠んでいますから、そうしないと中国詩壇とは交流できません。ではどんな詩を詠んだらいいでしょうか。

    學習塾      山田鈍耕
  稚気孫娘學塾通,  稚気の孫娘 學塾通い,
  浮沈席次琢磨功。    浮沈の席次は琢磨の功。
  何憐父母猶多夢,    何ぞ父母の猶多き夢を憐み,
  深夜書燈三尺童。    深夜の書灯 三尺の童。

 お父さんお母さんが学習塾に出してくれるから孫娘は夜も勉強しています。まだ電灯がついているよと見ている爺様の目がこの詩を詠みました。これこそ現代の感情です。

    門司港再游     萩原艸禾
  朱磚灼灼海関壁,   朱磚灼灼たり 海関の壁
  緑屋蒼蒼車站楼。      緑屋蒼蒼たり 車站の楼。
  却飽観光懐古趣,      却って飽く 観光 懐古の趣,
  低徊坐看去来舟。  低徊しそぞろに看る 去来の舟を。

 これは単なる風景描写ではありません。門司港へ来てみたら赤煉瓦の税関も駅舎の緑の屋根も観光目玉として宣伝されているのにガッカリした作者の気分が出ています。昔と変わらない舟の往来を見てその心を癒しているのです。

  到買進去到“平塚”的早市新鮮的蔬菜
              林 凱風
  野市朝閑古駅辺,  野市 朝閑けき 古駅の辺,
  衆多如駻互争先。     衆多 駻の如く互いに先を争う。
  家家且樂今宵飯,    家家 且た樂し 今宵の飯,
  隣隴新蔬近海鮮。    隣隴の新蔬 近海の鮮。

 平塚の駅の近所には今でも朝市が立つのです。作者は勤務を離れて初めて覗いてみました。暖地に恵まれ野菜は豊富、海が近いので魚は新鮮。今日の晩飯は旨いぞ。 ここに掲載したのは、みな葛飾吟社会員の作品です。こういう詩なら中国の詩人たちと同じ土俵で話ができます。詩人の世界は中国でも日本でも共通の筈です。気に入るとその作者の詩と同韻で詩を詠んで送って来ます。これは「次韻」又は「追韻」といいます。